CASE3    ペダルASSYの“ツメ”の破損〜正月早々の大アクシデント〜

新年を迎えた早々の2001年1月2日、お年賀のあいさつのため埼玉方面に向かっていたところ、
その途中でいきなり“ガツン!”という大きな音と衝撃が踏んでいたクラッチから足元に伝わり、
踏み込んだままのペダルが戻ることもなく何の反応もなくなってしまいました。
「うわぁ!ワイヤーだぁー!」とすぐに思い惰性で脇に寄せ、そしてあえなくMY VWは“故障車”となったのでした。
幸か不幸か2台で行っていたのでその助けを借り、よそ様の敷地での緊急のワイヤー交換となったのですが・・・。
今回は数日にわたるクラッチとの悪戦苦闘の記録です。とっさの時のための何かの参考にしていただけたら幸いです。


其の一・故障発生

いつどこで何があっても最低限の対処が出来る用意はしていたつもりでしたが、
いざ故障発生となると困ったことも出てきました。簡単に故障時の状況を追い、その対処についてまとめました。

困ったこと その対処
MY VWを止める場所 これはどうしようもありません。たまたま今回は惰性のまま寄せる場所がかろうじてありましたが
ないときは適当な場所まで押すしかないでしょう。
どちらの場合も
三角表示板赤い布など、
故障中を知らせるためのものは必要だと思います。
それから今回は車が走る運転席側のドアを開けて作業をしなければいけなかったので
半分程ドアを開たままで止めておける、
ひもか何か引っ掛けるものがあった方がいいと思いました。
作業 とにかく手は汚れます。手袋は積んでおいた方がいいと思いますが、
軍手より薄手のゴム手袋などのほうが作業はしやすいかもしれません。
あるいは
滑り止めつきの軍手でもいいと思います。
それからジャッキアップして下にもぐる時、敷物は欲しいです。

毛布一枚
積んでおくといいかもしれません。
工具 ひと通り揃えているつもりでしたが、あればいいというものではありませんでした。
ペダルASSYをフロアにとめているボルトがなかなか緩まず、
結局そのためだけでそこでの修理を諦めました。
工具は便利で、なおかつある程度“いいもの”を持っておくべきだと思いました。
牽引 たまたま二台で行っていたので引っ張ってくれる相手には困りませんでしたが、
牽引するためのロープがありませんでした。
牽引ワイヤーロープも用意すべき大事な道具かと思います。
VWの牽引は
●される時=フロントアクスルチューブ(フックがあればそれを使う)
●する時=ショックアブソーバーのマウントブラケット(スイングアクスルの場合)
        リヤのトーションチューブ
        ※プレスバンパー車はバンパーブラケット部でもOK。
という具合でワイヤーロープを繋ぎますが、いずれにしてもそれをどこかに“通す”必要があります。
その時に
引っ掛けるためのフックが付いているワイヤーロープだ牽引作業が簡単になります。

車の間を5メートル以内(あまり近いのも危ないと思います。)にして
ワイヤーロープに30センチ四方以上の白い布を付け、引っ張られるVWの運転席に
自ら乗り込めば法規にのっとった牽引が出来ます。
リヤに
三角表示板などをくくりつけるなどして牽引されていることを知らせればなおいいと思います。
牽引時のコツはなるべくワイヤーロープを張った状態にすること。からまる恐れがありますし、
そうしておかないと
発進時牽引される車はかなりの衝撃をうけることになります。
引っ張る側もコツはいりますが、引っ張られる方が難しいかもしれません。
それと
サイドブレーキは使わない方が無難です。うっかりして引いたままにしてしまうことがあります。
ブレーキパッドまでいかれたら目もあてられません。

大事なのは“だからどうした”というくらいの落ち着きです。
こんな故障なんてVWにとっては当たり前、そのくらいの気持ちでいた方がいいと思います。

前もって積んでいた工具や道具については 
“車載工具”及び“ガレージ備品”を参考にしてください。




其の二・原因と修理の方法

一体何が起こったのか?それを見つけることがなにより最も大切です。
G・Sに行ってやっとのことでペダルASSYを外すことが出来ました。
はたしてワイヤーははずれただけなのか、それとも切れたのか。ASSYをトンネルから引き抜きよく見ると・・・。

なんとトラブルはワイヤーそのものではなく
それを引っ掛ける
ペダルASSYの“ツメ”が折れたのが原因でした。
初めてその“ツメ”を見たんですが、そのひ弱さにびっくりしました。
今まで折れなかったのが不思議なくらいに感じましたが、
これはワイヤー先端部の引っ掛けとの摩擦によって
磨り減った結果によるものだと思われます。
ショップの人に聞いてみると
ツメが折れるというのは決して珍しいことではないようです。

さて、すぐ考えた修理の方法はASSYまるごとの交換です。折れた部分をくっつけ直して使うのは少々不安です。
ところがFLAT4に問い合わせてみたら扱っているのは左ハンドル用のみで

右用のペダルASSYはない
と言われてしまいました。
そうなると中古探しということになります。
そう思って、今度はいつもMY VWの面倒を見てもらっている
VWショップ“サンウィン”さんに話を聞いてみました。


聞くとやはり右用ASSYの数は少ないんだそうです。
パーツ取りというかたちで中古を手に入れる方法もありますが
折れたツメを溶接する手もありますよといわれ
ちょっと不安な気はしたんですが
溶接して乗っている人もいるということも聞いたので、
そうすればASSYを購入しないで済むし、ここは溶接を信じてみようと考え直し
結局知り合いに溶接を頼んでやってもらうことにしました。
(右上写真;作業に忙しく折れたツメの写真を撮り損ねました。写真は溶接後のものです。)





≪其の三・ペダルアッセンブリ―の取り付け≫

ツメの溶接をやり終えいよいよASSYの取り付けです。
ここまで来ればあとはどうにかなると鷹をくくっていたんですが世の中そんなに甘くありませんでした。

工具




Jack up!!


このページでのJack up初登場です。
ワイヤーを簡単にツメに引っ掛けるために
シャフトからワイヤーをはずし
ペダル側へ押し出す必要があるので
2トン用ジャッキでMY VWジャッキアップしました。
作業は
左リヤタイヤをはずさないと無理なので
面倒くさらずにはずします。
はずした左側をリジットラックにのせ固定し
サイドブレーキははずしフロントタイヤを輪止めします。
右タイヤを角柱に乗せジャッキアップする分の高さを
少しかせぎました。






・2トン用ジャッキ
・リジットラック
・ホイルレンチ
角柱






ワイヤーがなぜかびくともしない!


クッションを敷いて下にもぐりこみ
なんとかシャフトの部分のナットをはずれましたが
ワイヤーは押しても引いてもびくともしません。
ボーデンチューブの曲がりを少しもどしたり
チューブ内にグリスをスプレーしたりしているうちに
やっと動いてくれましたが
その原因は結局のところよくわかりません。
ワイヤーを押し込んでから運転席にまわり
トンネルの中に指を入れるとワイヤーの先端に届いたので
それをつまんで外に引き出しました。
前後に動かしてみるとゴソゴソと音がします。
これでワイヤーが切れていないことがはっきりしました。




・クッション
 (下にもぐる時に
  何か敷く物)

・グリス
 (スプレー式)

・長袖シャツ
 (腕を守るため。
  作業が
  はかどります。)







丈夫であってほしいツメを
削らなければならないジレンマ!


溶接したツメにワイヤー先端部を引っ掛け
グリスをぬって
トンネル内にASSYを入れようとしましたが
うまくいきません。
穴が小さいためクラッチペダルを倒して入れ
入ったら中で立てるということを
しなければいけないのですが
入っても中でワイヤーがはずれてしまいます。
はずれないためには
先端部がツメにかかったまま
ぐるぐる自由に回らなければいけません。

なるべく太いままに、回るぎりぎりのところまで
ツメをヤスリで削る必要が出てきました。





・グリス
 (スプレー式)











自宅にASSYと予備ワイヤーを持ち帰り
ヤスリがけの作業です。


ツメを削ってはワイヤーをはめ
また削ってははめてみて
少しずつツメを形作っていきます。
左右にわずかしか動かなかったものが
だんだん45度、90度と動くようになり
そしてほぼ360度自由に動くまで削りました。









・鉄用ヤスリ





削ったツメにワイヤーを引っ掛けたまま
無事ASSYがトンネルに入りました。


ぎりぎりクラッチペダルを倒して中に入れ
そっと立ててみました。
OK、ワイヤーははずれません。
と、ここで気を緩めることはできません。
穴が小さく位置を整えようとすると
ペダルやらアクセルのステーやらが
あっちこっちにぶつかります。
しかもトンネル内に配線を束ねたホースと思われる
チューブがあってASSYを向こう側に通す時に
その上から通さなければいけません。
これがなかなかうまくいかない。
おまけにASSY取り付け部のすぐ脇に
ブレーキエアのラインがはしっているので
荒っぽくやってへたに傷つけると
ラインの引き直しという最悪の事態にもなります。
(実は一度引き直したことがあるんですが
けして安い工賃ではありませんでした。)
ASSYはまるでとれたてのタコのようで
足、ではなくペダルがあちこち勝手に動きます。
いろいろと気をつけなければならないこの作業は
落ち着いてゆっくりやるべきでしょう。

最後にペダルを立てた状態で
バインド線で押さえておきました。
助手席側にまわってアクセルワイヤーの
リンケージ部を組みます。
ペダル側の固定をきっちりやりすぎると
ボルトが締めにくくなるので
その固定に少し余裕をもたせました。



・+ドライバー
・12mmレンチ
・モンキースパナ
・グリス
 (スプレー式)

・バインド線
 (ペダルを
  押さえます。)
・その他





ASSYを固定し
、さぁ仕上げです。
再びLRにもぐり、最後に残ったナットを
ワイヤーにはめようとしますが
今度はワイヤーがなかなかシャフトに届かない。
それはASSYをトンネルへ入れる時にポイント
がありました。


とりあえずASSYをトンネルに入れるのが先で
中に入ったワイヤーが多少曲がっていても
大丈夫だろうと勝手に思い込んだのが間違いでした。
ミッション側から引っ張っても
ワイヤーはそんなに簡単には引っ張れません。
鏡を使って助手席側からトンネル内を見ると
ワイヤーが上にのびているのがわかりましたが
外からはどうすることも出来ず
結局またASSYをはずしてやり直しました。
慎重にASSYをトンネル内に入れ直し
中のワイヤーをツメからはずれないようにしながら
何かで押して引っ掛かりをないようにしてやり
まっすぐ後ろへはるようにします。


・鏡

きっと誰でも苦労する
ワイヤーとシャフトのナット締め。


今度こそうまくいきそうだとLRにもぐり
ワイヤーを引くとシャフトに届くまで抜き出てきました。
これでやっとナットの取り付けが出来ます。
ところがこのナットがまたくせもの。
なかなかワイヤーにはまってくれません。
手探り状態でやらなければいけないので大変です。
それにナットをそのまま回しても
一緒にワイヤーも回ってしまうので
それを押さえながらやらなければいけません。
しかしどこから手を入れようとしても
二本の腕はいっしょには入らず、
片手でやろうとしても触れることは出来ても回せない。
重いシャフトも動かそうとするとなお大変で
うつぶせになったり仰向けになったり
プライヤーを使ったり素手でやってみたり
せまいところから無理矢理腕をつっこんで
腕を切ったりそれはもう七転八倒ものでした。
少し休憩を入れたりしながらそのうちなんとか
両腕を入れるポイントを見つけることができました。
これはナットをはずす時も同じことが言えます。
少し締めてはクラッチペダルを確認し、
そのうちだんだんクラッチの遊びがなくなり
久しぶりに重い感覚を味わえるまでになってきました。
いい感じ!いい感じ!

・プライヤー


出来ました。とうとう完成です。
しかし最後まで安心できないのが
この作業のポイントかもしれません。

クラッチの遊びOK、ブレーキの効きしろOK、
アクセルのペダル位置OK。グリスも塗りました。
トンネルの穴をふさぐブーツをASSYに通すことも
忘れていません。
そしてワイヤーの状態もいいようです。
ついに悪戦苦闘の結果、クラッチ修理を終わらせました。
ちょっとだけASSY下にかませてある
プレート位置が気になったので
直そうとしました。と、その時です。
“バターン!”
クラッチペダルはいい音をたてフロアに倒れました・・・。
ワイヤーがツメからはずれた瞬間です。しばらく呆然。
それまでバインド線でペダルが倒れないように
固定していたんですがそれをはずしたとたんのことでした。
ASSYをまたはずさないかぎり
ワイヤーはツメには引っ掛けられません。
最後の最後までクラッチペダルには注意が必要です。
後日気分をあらたに丁寧に作業を進め、
無事クラッチは元の通りに直りました。
MY VWの場合、ASSYとフロアの間に
二枚の大小のプレートをかまし、その“ツメ”で
ブレーキとクラッチのふたつのペダルの立つ位置を
決めるようになっていましたが、このかませかたにも
コツが必要でした。

ペダルASSYは消耗品でした。その耐久年数ははっきりしませんが、放っておくと突然の走行不能に陥ります。
なにかのタイミングでチェックが必要だと思います。


MY VWは購入後2年半、運転中の大きなトラブルはまったくありませんでした。これはまだいいほうじゃないでしょうか。
しかし来るべきものはやっぱり来ました。いかに普段の準備(道具も気持ちも)が大事かをあらためて思い返しました。

作業の細かいポイントについては“トミー毛塚のVWハンドブック”などを参考にして下さい

BUCK